高校2年生の東風和音(あゆ かずね)は、夢を失っていた。 9年前に世界一の音楽フェス『WORLD
SOUND』(W.S.)の舞台に立った歌姫・春町さくらの歌を聴いたその時、和音の夢は「彼女に自分が作った楽曲をW.S.で歌ってもらう」ことに決まった。しかし3年前、春町さくらの死去により、その夢は永遠に失われることとなったのだ。
夢を失い、無気力な3年間を過ごしてきた和音だったが、ある日屋上でクラスメイト・花本(はなもと)が涙を流しながら春町さくらの歌った『私の雨』の一節を歌う姿を目撃する。
花本の声は生前の春町さくらの歌声にそっくりで、衝撃を受けた和音は交流を深めようと彼女に近づくが、ことごとく拒否される。そんな中和音はアプローチを変え「曲を作った」と言い彼女を屋上へ呼び出す。
曲を作る大変さを知っているという花本は、その誘いを無碍(むげ)にはできず屋上へ現れる。さっそく披露する楽曲は花本があの日口ずさんだ『私の雨』のアレンジ曲。ボーカロイドを使い、元はバラードの曲を明るい曲へ仕立てたもので、しかもその曲に根付く「強い個性」を感じ取った花本は和音の正体に気が付く。
和音は3年前まで夢のために、作った楽曲を「おわんP」の名でネット上に公開しており、一世を風靡し姿を消した正体不明のボカロPとして若者を中心に名を馳せていたのだ。
圧倒的なポップセンスで魅せるおわんPこと和音の曲に心揺さぶられる花本は、そのまま思わず歌を口ずさんでいた。その瞬間、和音の夢は形を変え「花本に自分の歌をW.S.で歌ってもらうこと」になっていた。
さっそく花本に、一緒にW.S.への出場を持ちかけるが、花本から近い将来歌が歌えなくなるから無理だと告げられてしまう。だが和音は「花本以外なんて考えられない」と言い、春町さくらに似てるからというだけでなく、花本の歌声を聞いて、彼女と一緒なら日本一になれると強く確信したと真っ直ぐに見つめて伝える。
その瞳に、花本は明日に怯え続ける日々を、希望を見ながら生きる日々に変えていけるかもしれないと思わされ、次のW.S.開催までの3年間という約束で、タッグを組むことを了承するのだった。
固い握手を交わした二人だが、W.S.へ参加を目指す為にはまず知名度を上げる必要があった。そこで和音が打ち出した計画は「おわんP復活」を大々的に打ち出すことで―――!?