ジャンプSQ.連載確約 ネーム原作漫画賞 結果発表!!

【あらすじ】とある工場。男だらけのムサ苦しい職場に、突如一人の美女が現れた。男たちたは色めき立ち、それぞれにアピールし始めるが?たった一人の女神を求める恋愛サバイバルコメディ!
『工場の女神』
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実力ありです。胸の痛い話を、きちんと痛いまま描けていました。キャラクターの置かれている環境が辛辣にきちんと描けており、とてもレベルが高いので、この方は、もしかして、これ以外にもっとウケを狙って書いたら、なんでもかけるのでは?と思い、もしできるのであれば、そういうものがみたい気がしました。共感できるキャラを増やすと、もっとよくなる気がしました。

労働者たちの恋愛サバイバルというテーマに沿って、書いていることは概ね間違っておらず丁寧。ただ丁寧であるがゆえに展開も遅く、脇ではなく一番読みたい主人公とヒロインの絡みも遅くて、読者が求めるスピードで書かれていないという印象。漫画家と声優という鉄板の組合せを出すなら、読者が想像し得る読みたいポイントを早めに書いて欲しかったです。

コメディのセンスが抜きん出ており、ネームの技術も高かった。圧倒的に読み易いだけでなく、演出で面白くしようとする意識を感じた。工場という舞台や登場人物たちの高めの年齢層を考えるとやや青年誌向けの漫画ではあるが、男だらけの職場で一人のヒロインを奪い合うという企画性にキャッチ―さがあり、各話のクオリティの高さは投稿作の中でも随一だった。

【あらすじ】ヘビー級4団体制覇を達成した現役最強のプロボクサー・山田。自分が強すぎて対等な相手がいないことを憂う山田の前にキューバの伝説と呼ばれる男が現れるが…?
『エンペラー-最強のおとこ-』
西郷蓮一郎(32)

キャラが描けている。緩急も描けている。ドラマも要所要所で描けているし、ドラマのやめ方も丁寧。真剣に描くならボクシングはいいですが、ギャグで描くならボクシングでないほうがよいのではと危惧します。「強すぎる」というのを売りにしたときに、「舞台をなぜボクシングにしたのか」という問いに対する覚悟が連載には問われると思います。

自分より強い奴がいない、という柱からブレない構成の為とても読みやすい。各話の障害が全て同じハードルの高さでギャグ漫画よりだから4コマとかでも良いのかなと思いました。また今はポップに悩んでいる主人公を、もっとシリアスなギャグ漫画としてもっと深刻に悩みまくる主人公になったほうがより面白くなるようにも思いました。

「最強になりすぎたボクサーの憂い」という端的なテーマで4話分のエピソードを高いレベルで描けていた。各キャラクターも面白く描けているが、連載と考えると企画の地味さとワンパターンな展開を飽きさせない工夫がほしい。

【あらすじ】優れた人物の手に不思議なオーラが見えるという野上。とある交通事故の後、自分の手にもオーラが見えるようになった野上は手を巡る戦いに巻きまれる。
『あの手この手があの子の手』
ガクキリオ(31)

おもしろいです。キャラも見やすい。手というのが魅力であり、しかし一方で設定的地味さが出てしまうので、手を手じゃないものに変えるか、この地味さをぶっとばす魅力的な、もしくは奇怪な絵が描ける方と組めたらとてもよいのではないかと思いました。お客さんが「手」にどれくらい共感できるか、もしくは逆に気味悪すぎることで興味をもたすことができるか、というのが焦点だと思います。

1話でとてももたついているが、2話3話は緊張感のあるやり取りや構成がとても上手く引き込まれた。手に制限したからこの話が出来たというのもわかるが、手だけがモチーフだと漫画として間口がとても狭い。身体的なところを全部使った方がもっと面白いものが出来そうなので、大変ですけど手だけに限らないように直したほうが良いと思います。

「手」の一点突破で企画を成立させる手腕は見事だが、「手」だけに絞ったことで地味でスケールの広げにくい企画になってしまっていた。セリフと演出で状況を分かりやすく見せる技量があり、心理戦に説得力を持たせて面白く描けているので、そこにキャラクターの魅力が加えられるとより良かった。

【あらすじ】戦国時代、踊りによって戦の勝敗をつける「闘舞合戦」が行われていた。踊りの名手である牛尾の跡継ぎは、素晴らしい才覚を持ちながらも、とある確執によって城主から冷遇されていた。
『永禄歌舞伎 ウシオドル』
にしきわっこ(26)

とてもおもしろく読めました。一番キャラが動いており、魅力的に描けていました。セリフが多いので、半分の文字量でこのクオリティにできたらよいのではないかとおもいました。今回一番、ドラマとキャラが描けていたと思います。ただネタ的な派手さがどうだったかというと、姫の戦国譚に純化したほうが読みやすく、実は踊りが足を引っ張ったのではないか、もしくは、もっと踊りに純化すべきなのではないかと、読みながら思いました。好きだったので、期待しています。

生きるか死ぬかの緊張感は上手く伝わってくるし、各話でやるべきことをきちんと纏めていて構成がうまい。ただせっかくの踊りのシーンの凄さがあまり伝わらず、主人公の凄さの説得力が弱い。メインの見せ場になるところなので、作画がどうなるかは置いといて、ネームの中で凄いもののイメージを伝える工夫があればもっと良くなると思いました。

戦国時代や歌舞伎の起源についてよく調べた上で、虚実をないまぜにして上手くフィクションとしての説得力を出していた。ただし、踊りのシーンをどのように描き読者を圧倒するか、その勝敗をどう読者に納得させるかという絵的なアイデアを作画に丸投げしてしまっていたのは勿体ない。企画の根幹に関わる部分でもあるので、もう一歩突き詰めてほしい。

【あらすじ】YouTuberとして一攫千金を夢見る武藤は、謎のコンサルタント・唯と出会う。彼女の助言により順調に登録者数を伸ばしていった武藤だが、更なるバズを求め、ついに撮影は命がけになり…?
『ユーチューバー -地獄変-』
おおべさとし(29)

絵が上手いし、話も面白く、引き込まれました。一つだけ懸念点を書くと、YouTubeを題材にしているからには、よりYouTubeとの可処分時間の奪い合いを読者に意識させてしまうことになってしまいます。そうなった場合、単行本を手にした読者が、これ読むなら本物のYouTube見た方がカジュアルじゃん、と思わせないための戦いがあるなと感じました。

主人公の動機や目的が説明はされているもののYoutuberじゃなくても何者か=ひとかどの人間にはなれるだろうというのがあって共感し辛かったです。何かYoutubeと全く関係のないところで理由があって仕方なくやっているとかのほうが理解できたかもしれません。謎のコンサル女性は単体で見ればキャラの一貫性はあるように思えました。

演出力が高く、命を懸けた撮影というシチュエーションの緊迫感や追い詰められた主人公の切実さを魅力的に描けていた。サスペンスとYouTuberを掛け合わせた手腕は見事だが、キャラクターの魅力に乏しいためか、2話目以降がパワーダウンしていってしまった印象。過激さを押し出すことに加えて、読者が飽きないための縦軸を早めに提示できると良かった。

『ゼロの退魔師』
原作/白石新(34) コンテ構成/CHIHIRO

固い作りだなぁと思いましたが、とてもレベル高くやれていたと思います。類似の作品がたくさん思いつきますが、すでにそのレベルでやれています。ただ類似ジャンルのトップの作品と比べてしまうと、ドラマがない、泣きまで至れていないなと感じます。高いバランスで成立しているので、泣きと、激烈な勢いがもっとあるとよりよいと思いました。

転生もので2話分形にはなっているが、全体を通して何か一つでも新しさや突出したアイデアがあれば良かったです。ありふれた魔王という設定、また神卸しという設定で読者が知っているものをただ単に出すだけなのもそれを助長しているように思えました。2人に分かれたくだり、肉体労働を拒否する魔王は印象があまり良くなかったです。

転生モノとして高いレベルでまとまっていた。要素としては魔王、龍、陰陽師、神様などやや詰め込み過ぎな印象はあるものの、王道な展開でキャラクターの魅力をしっかりと見せられていた。設定や展開自体はかなりベタであり、この作品にしかない魅力や新しさには欠けるので、この作者にしか描けない世界がもっと見たかった。

『アンラッキー×ニッポン』
あすとろ今斗(29)

コマ割りがわかりやすくてよいなと思いました。ただ、キャラクターの動機が薄いのと、設定の作り込みが甘いなと感じました。展開も、5話までの内容は、1話に入ると感じました。世の中に似たような作品がたくさんあるので、連載に耐えうるものするには最低限同じレベル以上に作り込まなければならないと思います。

読者が設定を説明して欲しい時に説明をする構成にして欲しいなと思いました。一話で全く何もわからないし、各話の引き方もわからないものを出されるだけで単に不親切。霊能バトル漫画であると4話でやっとわかるが、ならばと翻って一話からこの主人公で始めた理由も無いように思え、なんとなくいい奴で始めたという印象しかなかったです。

セリフにセンスがあり、コマ割りも上手い。「お助け屋」をしている主人公も魅力的に描けているが、3話目まで読んでも何を楽しみに読んでほしい漫画なのかが分からない構成は再検討が必要。ページ数にもばらつきがあり、月刊連載を想定していない作りなので、まずは「1話目に必要な情報が何か」から考えていってほしい。

とても楽しく読みました! ものすごくレベルの高い戦いで、読んでる間ずっと、自分がこれを書いている時はどう考えるかな、どうするかな、どう直して読者に喜んでもらうかなと、考えながら読みました。全部接戦だったと思います。そしてレベルが高かったからこその意見として、ドラマがもう一歩足りない、キャラがもう一歩足りない、その設定を選んだ理由がもう一歩足りないとかの、足りないところを比較しながら読んでしまいました。プロの戦場で戦うには、プロたちのドラマの横に並んで、それより派手でなければならならず、ワンアイディアだけでは戦っていけないので、そこを踏み込んでほしいなと思ったり、僕がやるときも、もっと踏み込まなきゃいけないなと自戒したりできました。とにかく、素晴らしかったです。同じ紙面に載るときはよろしくお願いします。僕も負けないように頑張ります!切磋琢磨していきましょう!

今回はネームだけの賞ということで、主人公が持つ凄さをネームの演出単独で描こうとしている『あの手この手があの子の手』を一番の評価とさせて頂きました。自分のネームを疑って直して、ここは作画の見せ場だなというところにメリハリをつけてページを割れるようになれば、さらに読みやすくなると思います。漫画をネームと作画で分かれてやっていると、「ここの表現は作画の先生のほうが自分よりも上手く書けるだろう…」というところが毎回のように出てきます。それでもその度作画の先生に任せるのではなく、自分が書ける範囲でその表現を分解し、要素を考え抜き、一つの演出にして渡すことが大事なのだと思います。この繰り返しが、漫画自体への理解を深め、作画の先生に対してより良き下駄となって、よい表現が生まれ、読者も幸せになる。これが二人に分かれて書くときにとても大事なのではないかなと、今回審査を通じて改めて勉強になりました。貴重な機会をありがとうございました。

非常にレベルの高い接戦で、最終候補に残った作品のどれもに長所がありました。ストーリーのレベルが高い作品が多かったからこそ、結果的には「一話目の時点で作品のコンセプトや主人公の魅力を描けている」ことや「演出にアイデアがあること」が上位の賞を決める要因になりました。ネーム原作者には面白いお話を考える能力だけではなく、漫画の形式でその面白さを伝えるスキルが求められます。今後描く作品ではそこまで意識してみてください。たくさんのご投稿ありがとうございました。