【インタビュー 第3回】岸本卓×山岸菜 クリエイターズSQ.

【アニメ業界編】
シリーズ構成・脚本
岸本卓
『うさぎドロップ』『ハイキュー!!』
このコーナーは
身近な存在でありながら、意外と実態を知らないエンタテインメント業界。本コーナーでは業界で活躍するクリエイターたちを取材し、その仕事の実態を探っていく!今号では、シリーズ全体から各話の隅々まで「お話」を担う脚本家・岸本卓氏が登場!全3回に渡って「脚本家の仕事」についてご教示頂く!!
デビュー作でシリーズ構成!
そして解任騒ぎに…!?

――アニメ脚本は会議で色々な方の意見を受けて修正されますが、大体何稿くらいまで直すものでしょうか?

岸本 作品や監督によって色々ですね。原作付きであれば早くて3稿くらいですが、難航すれば6、7稿になることもあります。オリジナルだと普通に7、8稿も。野村和也監督の『ジョーカー・ゲーム』の時は、まぁ大変でした(笑)。小説原作なので、お話を映像で再構成することがまず大変で、さらに大変だったのが野村監督のこだわり。例えば、ある話数が準決定稿になって次の話数を書き始めるのですが、2週間くらいして監督が「1話前の脚本、あれはあれでいいんだけど…こういうやり方もあるよね?」と言いだして。「あれでいいならいいじゃん!!」…って文句言うんだけど、改めてちゃんと考えてみると、確かにそっちの方が面白いかなと…しょうがない、書き直すか…と(笑)。

――岸本さんが手掛けられた『91days』は完全オリジナル作品でした。原作付きとの違いはありましたか?

岸本 まず、作業自体が全然違います。原作付きは基本的に原作の再構成です。各話20分の尺に原作を収めるためにはどう作れば最善かを考え、そこからシーンを足したり引いたり、入れ替えたりして調整する、構成力を求められる部分が大きいです。一方オリジナルだと、一からお話を作ることになります。

――作家としての能力がさらに必要になってくるのですね。

岸本 能力ももちろんそうですが、かける労力も段違いに必要になります。ちょっと生臭いお金の話になりますが、原作付きもオリジナルも、一本あたりの単価はあまり変わらないんです。お金の面だけで言えばオリジナル作品はあまり割が良くない(笑)。オリジナルを作らせてもらえることは非常に名誉なことではありますが、お金に関しては原作付きかオリジナルかで、もう少し柔軟に設定される方が健全かなと思います。

――オリジナル作品は挑戦とも言えますが、どのように立ち上げられるのでしょうか?

岸本 僕は立ち上げの経験はほとんどありませんが、『91days』の場合、僕が入る1年半くらい前から監督・プロデューサー・脚本家で打ち合わせをしていたそうです。その時はマフィアものとも決まっておらず、皆でネタを持ち寄って相談していたそうです。僕は皆が長期間話し合って疲れてきた頃に呼ばれて入ったんです。そこで僕が受けたオーダーは、「ドロドロした昼ドラみたいなマフィアもので」と、皆疲れていたからかざっくりした感じでした(笑)。僕はマフィアものが大好きなので、1~2週間で構成案を書いて出しました。すると、これまた皆疲れ切っていたのか、割とあっさりゴーサインが出た。これがまだ皆元気でピチピチしていたら、ああだこうだと色んな意見が出て、全然決まらなかったと思います。

――提出された構成案は、どれくらいまで作り込まれたものですか?

岸本 シリーズ全体の各話構成です。第1話でこんなことをやって、第2話でこんなことをする…といった感じです。各話の起承転結も入れて「こういう風に始まって、こういう風に終わる回」というものを全話分作りました。シナリオにしていく上で大分変更が加わりましたが、まあ、ガイドとしては十分機能したと思います。

――その時点でキャラクターはできているのでしょうか?

岸本 この時点でキャラクター設定はあまりありませんでしたね。せいぜい、ざっくりした性格付けとか組織内における立場とか。お話には2つの作り方があると思います。1つはまずキャラクターを作り、それがどう動くかで話が進んでいくという〝降りてくる〟作家タイプの作り方です。「お話がどう進むかは、キャラクターに聞いてみないと分かりませんね」とか、一度インタビューで言ってみたい(笑)。で、僕の場合はお話と人物配置を比較的かっちり決めて、大方の展開が決まってからお話の中で人物を掘り下げていって、そこでキャラクターの生々しさを出そうとします。だから僕のお話は、よく言えば整っていて破綻はないけれど、悪く言うと「この物語、どこへ向かっているの!?」という意外性は少ないのかも知れません。…そう言うと「お前の脚本、ちっとも整っていないじゃん!」と、どこかの関係者から言われるかも知れませんが(笑)。

――最後に、脚本家を目指す読者へアドバイスをお願いします。

岸本 まず前提として「脚本家になりたい」という動機は結構やばいです。僕のところにも「なりたいです!」という人は時々来るのですが、書いた物を持って来る人はあまりいない。脚本家になることと、お話を書くことの順序をあべこべに考えている人が意外と多いというか…まずは書いてからです。書かないと脚本家も何もない。次の段階は、ダメ出しに耐えられるかです。「読んで下さい!」と言われて、読んで添削してそれを伝えるのですが、その後、書き直した脚本を持って来る人はほとんどいません。こちらはタダで、サービスで見ているのに!(笑)

――「直しました!また見て下さい!!」とはならないのでしょうか?

岸本 心が折れちゃうのかも知れないし、どう直したらいいのか分からないのかも知れない。…つまり多くの志望者はそこで終わっているので、変な話、そこをクリアするだけでライバルより一段上へ行けるんです。まずは1本書けるか。そして人に見せて直せるか。あとは食らいついて進んでいくだけ。大変な道のりに見えるかも知れませんが、意外と入口でへこたれる人が多いので、見かけほどの競争ではないのかも。大事なのは図々しさです。書いたものをどんどん人に見せて、どんどんよい脚本にして、どんどん上手くなっていって下さい(笑)。

――それは志望者にとって切実なアドバイスです!ありがとうございました!!

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